股関節について調べていると、「OA」「DDH」「臼蓋形成不全」といった言葉を目にすることがあります。似た文脈で使われるため混同されやすいのですが、それぞれが示す内容は同じではありません。
OAは「Osteoarthritis(変形性関節症)」の略で、股関節だけではなく膝や手などにも使われる言葉です。股関節に起こったOAは「変形性股関節症」と呼ばれます。
一方、DDHは「Developmental Dysplasia of the Hip(発育性股関節形成不全)」を指します。また、成人では「臼蓋形成不全」という言葉が使われることがありますが、DDHと成人の臼蓋形成不全を単純に同じものとして扱うことはできません。日本整形外科学会でも、変形性股関節症、発育性股関節形成不全、臼蓋形成不全はそれぞれ分けて解説されています。
股関節に痛みや動かしにくさがあっても、症状だけからOAや臼蓋形成不全と決めることはできません。まずは整形外科で身体の状態を確認し、必要に応じて画像検査などを受けることが大切です。
この記事では、主に成人の股関節の不調を対象に、OA・DDH・臼蓋形成不全の違い、受診を考えたい症状、日常生活で気をつけたいこと、そして鍼灸について相談できる範囲を整理します。
この記事の要点
- OAは変形性関節症の略で、股関節に起こるものを変形性股関節症と呼びます。
- DDHは発育性股関節形成不全を指し、成人の臼蓋形成不全とは関連がありますが、機械的に同じ意味ではありません。
- 股関節の痛みや動かしにくさだけで原因を決めず、長引く場合や生活に支障がある場合は整形外科で状態を確認することが大切です。
- 鍼灸は骨の形や関節の変形を元に戻すものではなく、痛みなどの症状について相談する場合も整形外科での治療を代替するものではありません。
股関節のOA・DDHとは?言葉の違いを整理
「OA」「DDH」「臼蓋形成不全」は、股関節について調べたときに一緒に出てくることが多い言葉です。しかし、それぞれが示している内容や使われる場面には違いがあります。
最初に用語を整理しておくと、その後の説明を理解しやすくなります。
| 用語 | 日本語 | 意味 | この記事で扱う範囲 |
|---|---|---|---|
| OA | Osteoarthritis/変形性関節症 | 関節の軟骨や骨などに変化が起こる関節疾患の総称 | 主に股関節OA=変形性股関節症 |
| DDH | Developmental Dysplasia of the Hip/発育性股関節形成不全 | 発育の過程でみられる股関節の形成異常を含む概念 | 用語の意味と成人の股関節との関係 |
| 臼蓋形成不全 | Acetabular dysplasia | 大腿骨頭に対する骨盤側の臼蓋のかぶりが十分でない状態 | 主に成人の臼蓋形成不全と変形性股関節症との関係 |
OAは変形性関節症を指す略語
OAは「Osteoarthritis」の略で、日本語では一般に「変形性関節症」と呼ばれます。
そのため、「OA=股関節の病気」という意味ではありません。膝に起これば変形性膝関節症、股関節に起これば変形性股関節症というように、さまざまな関節で使われる言葉です。
変形性股関節症では、関節軟骨や関節周囲に変化が生じ、股関節の痛みや動かしにくさなどにつながることがあります。
初期には、立ち上がるときや歩き始めに脚の付け根が気になる程度の場合もあります。一方で、状態が進むにつれて歩行や階段、靴下を履く動作など、日常生活で困る場面が増えることもあります。
ただし、股関節が痛いからといって、必ず変形性股関節症とは限りません。股関節周辺の筋肉や腱、腰など、別の場所が関係していることもあります。
「OAという言葉を見たから自分も変形性股関節症だろう」と考えるのではなく、症状が続く場合には整形外科で状態を確認することが重要です。
DDHと成人の臼蓋形成不全を同義にしない
DDHは「Developmental Dysplasia of the Hip」の略で、日本語では「発育性股関節形成不全」と呼ばれます。
乳幼児期の股関節について使われることが多い言葉で、発育の過程における股関節の形成状態を含む概念です。
一方、成人で「臼蓋形成不全」と言われる場合には、骨盤側にある臼蓋が大腿骨頭を覆う程度が十分ではない状態を指します。
DDHと成人の臼蓋形成不全には関連がありますが、「DDH=成人の臼蓋形成不全」と単純に置き換えることは適切ではありません。成人の臼蓋形成不全が、いつ、どのような経過で成立するのかについては、分かっていない部分もあります。
また、成人の臼蓋形成不全を「赤ちゃんのときの抱き方が悪かったため」など、一つの生活習慣だけに結びつけて考えることも避けたほうがよいでしょう。
乳幼児のDDHが気になる場合には、家庭で股関節を動かして状態を判定しようとするのではなく、小児科や小児整形外科などの医療機関へ相談してください。
この記事では乳幼児への施術方法や自宅での確認方法は扱わず、ここからは主に成人の股関節について説明します。
変形性股関節症と臼蓋形成不全の関係
変形性股関節症と臼蓋形成不全は同じ意味ではありませんが、両者が関連することはあります。
成人の臼蓋形成不全では、大腿骨頭に対する骨盤側のかぶりが十分でないため、股関節の一部に負担が集中しやすくなる場合があります。そのような状態が長期間続くことが、変形性股関節症につながる要因の一つになることがあります。
ただし、臼蓋形成不全がある人すべてが同じ経過をたどるわけではありません。
股関節の構造と負担を簡単に理解する
股関節は、骨盤側のくぼみである「臼蓋」と、大腿骨の先端にある丸い「大腿骨頭」が組み合わさってできています。
立つ、歩く、階段を上る、椅子から立ち上がるといった動作では、股関節に体重や筋肉の力が加わります。
臼蓋が大腿骨頭を十分に覆っている場合には、荷重を比較的広い範囲で受けることができます。一方、臼蓋形成不全があると、荷重が一部に集中しやすくなることがあります。
しかし、画像上で臼蓋形成不全が確認されたからといって、その時点で必ず強い痛みがあるわけではありません。反対に、股関節周囲に痛みがあっても、その原因が臼蓋形成不全だけとは限りません。
股関節の形と現在感じている症状は、分けて考える必要があります。
痛み・動かしにくさだけでは原因を決められない
変形性股関節症では、脚の付け根周辺の痛み、歩き始めの痛み、股関節の動かしにくさなどがみられることがあります。
状態によっては、長く歩くことがつらい、階段の上り下りが大変、靴下を履きにくい、爪を切りにくいといった日常生活上の変化が現れることもあります。
ただし、このような症状があるからといって、それだけで変形性股関節症や臼蓋形成不全と決めることはできません。
股関節周囲には筋肉、腱、靱帯などがあり、腰や骨盤周囲から痛みを感じる場合もあります。症状の場所や強さだけで原因を一つに絞らず、必要な場合には医療機関で身体の状態を確認することが大切です。
特に、以前に「臼蓋形成不全と言われたことがある」という方でも、新しく出てきた痛みがすべて臼蓋形成不全によるものとは限りません。
整形外科で状態を確認する意味
股関節の痛みが続いているときに整形外科を受診する目的は、「病名をつけてもらうこと」だけではありません。
現在の関節の状態、動かせる範囲、症状の経過などを確認し、必要に応じてX線などの画像検査を行うことで、股関節にどのような変化があるのかを整理できます。変形性股関節症では、状態によってCTやMRIなどが検討される場合もあります。
また、股関節の状態によっては運動療法、薬物療法、生活上の負担調整、手術など、複数の選択肢が検討されます。
鍼灸について考える場合にも、関節の状態や医療機関で説明された治療方針が分かっていると、「何について鍼灸へ相談するのか」を整理しやすくなります。
股関節の形や関節の変化そのものと、痛みや周囲の筋肉の不快感などの症状は分けて考えることが重要です。
受診を優先したい症状と日常の負荷調整
股関節の不調がある場合、すべてをセルフケアだけで様子を見るのではなく、症状によっては医療機関への相談を優先したほうがよいことがあります。
特に急に症状が出た場合や、これまでと明らかに状態が違う場合には注意が必要です。
急な強い痛み・荷重困難・発熱などがある場合
転倒やけがのあとに股関節へ強い痛みが出た場合や、脚に体重をかけられないほど痛む場合には、セルフケアを続けるより医療機関への受診を優先してください。
また、けがをしていなくても突然強い痛みが出た場合や、股関節周囲が熱を持って腫れている場合、発熱や強い体調不良を伴う場合なども、早めに医療機関へ相談したい状態です。
急な症状がなくても、痛みが徐々に強くなっている、繰り返している、睡眠に影響している、歩行や仕事、家事など日常生活に支障が出ている場合には、長期間そのままにせず整形外科で相談することをおすすめします。
鍼灸を受けるかどうかを考える場合も、このような受診を優先したい状態がないかを最初に確認することが大切です。
股関節の痛みについて、考えられる原因や受診の考え方をもう少し広く確認したい方は、「股関節の痛みと受診目安について」もあわせてご覧ください。
歩行や生活の負担を見直す
股関節が気になると、「できるだけ動かさないほうがよいのでは」と考える方もいれば、反対に「運動したほうがよいから痛くても歩く」と考える方もいます。
しかし、必要な運動量や負荷は股関節の状態によって異なります。
長時間歩いた日に症状が強くなるのであれば、まず一日の歩行量や立っている時間を振り返ってみましょう。階段、坂道、重い荷物を持った移動、深くしゃがむ動作など、特定の場面で負担が増えていないかを確認することも役立ちます。
「まったく動かさない」「痛みを我慢して予定どおり運動する」といった極端な方法ではなく、現在の状態に合わせて活動量を調整することが基本です。
すでに整形外科やリハビリテーションで運動や生活動作について指示を受けている場合には、その方針を優先してください。
運動・ストレッチは状態に合わせる
股関節の柔軟性や筋力を保つことは重要ですが、すべての人が同じストレッチを同じ回数行えばよいわけではありません。
股関節を大きく開く、深く曲げる、強くひねるなどの動作で痛みが増える場合には、無理に可動域を広げようとしないでください。
「痛いほど伸ばしたほうが効く」と考えて強くストレッチを続けると、かえって症状が強くなることもあります。
運動中や運動後に痛みが明らかに増える場合には、動作の種類、強度、時間などを見直します。どの程度まで動かしてよいか判断しにくい場合は、整形外科やリハビリテーションの担当者へ相談するとよいでしょう。
手術後や治療中の方については、一般的なセルフケアよりも主治医や担当者から受けている指示を優先してください。
変形性股関節症・臼蓋形成不全で鍼灸に相談するとき
変形性股関節症や臼蓋形成不全がある方から、「鍼灸を受けてもよいですか」「股関節の痛みに鍼灸は使えますか」と相談されることがあります。
ここで重要なのは、「骨や関節の形」と「現在感じている症状」を分けて考えることです。
鍼灸によって臼蓋の形を変えたり、変形した関節を元の状態へ戻したりすることはできません。
そのうえで、痛みや股関節周囲の筋肉の張りなどについて鍼灸を検討する場合には、研究で分かっている範囲と限界を理解しておく必要があります。
鍼灸の研究で分かることと限界
変形性関節症に対する鍼灸については複数の研究がありますが、膝関節を対象とした研究が多く、股関節についての研究は限られています。
股関節OAを対象とした研究では、鍼灸と偽鍼を比較したときに痛みや機能の差が小さい、あるいはほとんど認められなかった報告がある一方、通常の医療に鍼灸を追加することで痛みや機能の改善がみられた研究もあります。NCCIHも、股関節OAについては膝OAほど研究が多くなく、結果の解釈には注意が必要であることを示しています。
また、ガイドラインによって鍼灸の位置づけは異なります。条件付きで選択肢として扱うガイドラインがある一方、NICEの変形性関節症ガイドラインでは、OA管理のために鍼やドライニードリングを提供しないことが推奨されています。
このように、股関節OAに対する鍼灸の評価が一律に確立しているとはいえません。
そのため、「変形性股関節症なら鍼灸で必ず良くなる」「鍼灸を受ければ手術を避けられる」といった説明は適切ではありません。
また、DDHそのものに対する鍼灸の有効性についても、現時点で確立されたものとして説明することはできません。
症状への対応と骨・関節の構造を区別する
臼蓋形成不全がある場合でも、実際に困っていることは人によって異なります。
歩き始めに脚の付け根が痛む方もいれば、長く立っていると股関節周囲が重くなる方、殿部や太もも周辺の筋肉に張りを感じる方などさまざまです。
鍼灸について相談する場合には、「臼蓋形成不全を治す」という考え方ではなく、「現在どのような症状に困っているのか」を整理することが大切です。
例えば、股関節周囲の筋肉の緊張や痛みなどについて施術を検討する場合でも、骨の形や関節変形そのものを変える施術とは分けて考えます。
症状が軽くなったとしても、それだけで関節の形や変形が改善したことを意味するわけではありません。
症状の変化と関節の構造を混同しないことは、変形性股関節症や臼蓋形成不全について鍼灸を利用する際の重要なポイントです。
受診歴・服薬・手術歴・治療方針を共有する
整形外科へ通院しながら鍼灸について相談する場合は、これまでに受けた説明や治療内容を鍼灸師にも伝えてください。
特に、
- いつ頃から痛みがあるか
- どのような動作で症状が出やすいか
- 整形外科でどのような説明を受けているか
- 現在服用している薬があるか
- 注射やリハビリテーションを受けているか
- 股関節の手術歴があるか
- 今後予定されている治療があるか
といった情報は、施術について検討する際の参考になります。
薬を服用している場合も、鍼灸を受けるために自己判断で中止したり量を変更したりしないでください。
また、手術後やリハビリテーション中の場合には、主治医や担当者から運動や負荷について指示されている内容を優先します。
鍼灸は整形外科で行われている治療の代わりとして考えるのではなく、現在の症状について相談する選択肢の一つとして位置づけることが大切です。
よくある質問
Q1.OAとDDHは同じ病気ですか?
同じものではありません。
OAは「Osteoarthritis」の略で、日本語では変形性関節症を指します。股関節に起こるOAが変形性股関節症です。
DDHは「Developmental Dysplasia of the Hip」の略で、日本語では発育性股関節形成不全と呼ばれます。
DDHや臼蓋形成不全が将来の股関節の状態と関連することはありますが、「OA=DDH」という関係ではありません。
検索結果などで複数の用語を見かけた場合には、まずどの言葉が「関節の変化」を指し、どの言葉が「股関節の形成」に関するものなのかを分けて理解すると整理しやすくなります。
Q2.臼蓋形成不全があれば必ず変形性股関節症になりますか?
臼蓋形成不全があるからといって、すべての人が同じ経過をたどるわけではありません。
成人の臼蓋形成不全は変形性股関節症と関連する状態ですが、将来どの程度症状が出るか、どのように関節が変化するかは一人ひとり異なります。日本整形外科学会も、臼蓋形成不全が後年どのように変形性股関節症として現れるかについて、分かっていない点があることを示しています。
画像上の所見だけで将来を決めつけたり、反対に症状がないから問題ないと自己判断したりせず、必要に応じて整形外科で経過を確認することが大切です。
Q3.鍼灸で臼蓋の形や関節の変形は元に戻りますか?
鍼灸によって臼蓋の形を変えたり、変形した股関節を元の形へ戻したりすることはできません。
鍼灸について検討する場合には、骨や関節の構造を変える目的ではなく、現在感じている痛みや股関節周囲の筋肉の不快感などについて相談する範囲で考えます。
また、症状が変化したとしても、それを「関節が修復された」「臼蓋形成不全が改善した」と判断することはできません。
整形外科で必要な経過確認や治療を続けながら、鍼灸を利用するかどうかを検討してください。
Q4.痛みがあるときはストレッチを続けてもよいですか?
痛みの程度や股関節の状態によって異なるため、痛みを我慢して一律のストレッチを続けることはおすすめできません。
軽く身体を動かすことが適している場合もありますが、動作中や運動後に痛みが明らかに強くなる場合には、動かす範囲や強度を見直す必要があります。
特に股関節を大きく開く、深く曲げる、強くひねるなどの動作で症状が強くなる場合は、無理に可動域を広げようとしないようにしましょう。
リハビリテーションを受けている方や手術後の方は、担当者から指示されている運動内容を優先してください。
Q5.整形外科に通いながら鍼灸について相談できますか?
整形外科へ通院している方でも、現在の症状について鍼灸師へ相談することはできます。
その際には、整形外科で説明されている股関節の状態や治療方針、服薬、リハビリテーション、手術歴などを共有してください。
鍼灸は整形外科で必要とされている治療や経過確認を代替するものではありません。
受診と鍼灸のどちらか一方を選ばなければならないと考えるのではなく、それぞれの役割を分けたうえで利用を検討することが大切です。
足立区・梅島で股関節の不調について相談したい方へ
股関節の痛みが続いている方の中には、「OAと言われたけれど、どのような意味なのか分からない」「以前に臼蓋形成不全と言われたことがある」「整形外科に通っているが、鍼灸についても相談してみたい」という方もいらっしゃいます。
梅島鍼灸院では、股関節の不調についてご相談いただく際、病名だけで判断するのではなく、現在どのような症状があり、生活の中で何に困っているのかを確認します。
立ち上がるときに気になるのか、歩いていると徐々に痛くなるのか、長時間立っているとつらいのかなど、同じ股関節の不調でも状況は一人ひとり異なります。
すでに整形外科を受診している方は、これまでに説明された内容や現在の治療方針、服薬、リハビリテーションの状況なども可能な範囲でお伝えください。
一方、まだ医療機関を受診しておらず痛みが長引いている場合や、歩行・睡眠など日常生活への影響が大きい場合には、まず整形外科で股関節の状態を確認することが大切です。
また、転倒後の強い痛み、脚に体重をかけられない状態、突然の強い痛み、熱感や腫れ、発熱を伴う場合などは、鍼灸よりも医療機関への受診を優先してください。
鍼灸は、臼蓋の形や変形した関節を元に戻すものではありません。また、変形性股関節症やDDHに対する効果を一律に保証できるものでもありません。
そのうえで、医療機関での治療方針を踏まえながら、現在感じている痛みや股関節周囲の筋肉の不快感などについて鍼灸を検討したい場合には、ご相談ください。
足立区・梅島で股関節の不調について鍼灸を検討している方が、整形外科での評価や治療と鍼灸の役割を混同せず、自分の状態に合った方法を考えるためのお手伝いをいたします。
当院で行っている施術内容については、「鍼灸施術のご案内」もご確認いただけます。
